世界初のコンサルティングファーム

コンサルティングファームの起源は欧米に求めることが出来ます。欧米では既に19世紀末にコンサルティングの貢献可能性が打ち出されており、世界初のファームも1886年に設立されました。当時のキャッチコピーは「イノベーションの実現」であったと言われています。19世紀末の欧米は、産業社会が複雑化している只中にありましたから、多くのクライアントがコンサルティングファームの出現を歓迎しました。ファームの目標の本筋は、その頃から何一つ変わっていません。それは経営と技術を如何に融合させるかという、大きなテーマなのです。技術革新は社会に変化を齎しますが、その革新の一助となるべく、クライアントは個別の業界で奮闘しています。コンサルタントはまずその業界の状況を緻密に分析し、それに合った経営方針を提案します。もちろんそこには、業界内で生じている技術革新の可能性を踏まえた策略が潜在しているのです。また、欧米のコンサルティングの歴史を振り返ると、もう一つの大きなテーマが見えてきます。それは、クライアントの傍に立ちながら、同時にクライアントの自立を促すということです。日本ではクライアントにべったり付いたまま、手取り足取り指導するコンサルタントも少なくありませんが、欧米では細かく指南しつつも、最終的にはクライアントの潜在力を引き出し、自立してもらうことを目標に掲げています。理想論だと思われる方もいらっしゃるでしょうが、欧米では元々、自立した者同士のパートナーシップこそ、真に称えられるべきものだという思想があります。コンサルティング業界もその思想の影響を受けているのです。ですから自立のための戦略を策定するのもコンサルタントの仕事であり、クライアントのマインドセットを変革するプロフェッショナルも存在します。

コンサルタントと社会貢献

コンサルタントは有識者として、単にお金を稼ぐだけでなく、公益部門で活躍することが期待されています。ですから社会貢献に関心のあるコンサルタントはそのような求めに応じる形で、NPO等に就職することがあります。収入は減額することもありますが、お金よりもやりがいを優先して転職するわけです。コンサルタントとしての経験は、NPOに入ってからも大いに役立ちます、NPOは非常に政治的な空間でもあるため、スタッフは自分の意見を的確に伝えるスキルを求められます。そのスキルこそ、正にコンサルタントが有しているものなのです。多くの人の意見を集約し、相手を説得する話術は、コンサルタントとして培われるものです。また、スタッフを客観的に評価したり、成果を配分したり、健全な運営を実施したりする際にも、コンサルタントとしての経験が物を言います。コンサルティング業界では、コンサルタントの離職、転職を見越して、「プロボノ」と呼ばれる制度が流行しています。これは一種のボランティア活動で、ファームとしてコンサルタントをNPO等に派遣するのです。日本社会も東日本大震災以降、人と人との繋がりが如何に大切かを学んできました。優秀な人材、正義感を持った人材が、専門知識を活かして社会貢献する場を提供することは非常に重要です。そしてその人材の筆頭に挙げられるのが、コンサルタントたちなのです。コンサルタントはボランティア活動や、NPOのスタッフとしてだけでなく、経験を積めば政治家として活躍する道も残されています。コンサルタントと政治家は求められる資質が類似しており、第二の人生として政治家を選択するコンサルタントも増えています。

コンサルタントが起業するとどうなるか

コンサルタントは経営の仕方を指南するのが本業ですから、自分で起業すれば成功するのではないかと思われがちです。確かに一部のコンサルタントは経営者に転身して成功していますが、皆が上手くいくわけではありません。成功すれば「さすがは元コンサルタントだ」と持て囃されるでしょうが、失敗すれば目も当てられません。自身のコンサルタントとしてのキャリアを自ら否定することになるからです。実際、そのような失敗は少なからず起こっています。理由は単純です。コンサルタントとして優秀でも、経営者として優秀であるとは限らないからです。もちろんコンサルタントとして身に付けた知識、経験はそれなりに役立つのですが、最後は当然ながら経営者としての資質が問われます。経営者としての資質に欠けていれば、どれほど経営に関する知識を有していても、意味がないのです。コンサルタントを目指す人の中には、将来はコンサルタントを辞めて経営者に転身しようと考えている人もいるでしょう。もちろんその通りに事が運ぶこともありますが、絶対成功すると過信しないことが大切です。保険を用意することも人生設計の一つであり、コンサルタント業界を離れた後の選択肢を複数準備するのが堅実です。コンサルタントとして学んだことは、起業以外にも大いに役立つため、例えばNPOや政治家という選択肢も考えられるでしょう。実際コンサル業界出身者が政治家になったり、NPO法人に就職したりするケースが後を絶ちません。コンサルティング業界で身に付ける知識は非常に専門的であることから、公益的部門で貢献できる可能性が高いのです。思い出されるのは東日本大震災以降の動きです。被災地で活動するボランティアを束ねた人の中に、コンサルティング業界出身者が大勢いました。

独立という選択肢

会社で十分な実績を積み上げた人が、突然退職して独立するケースは珍しくありませんが、それはコンサルティング業界にも起こり得ます。コンサルタントは元々独立志向が強く、ベテランの域に達すると、仕事はファームの助けを借りずに行うことが出来るものです。ただ自前のオフィスを構えるとなると、高額の家賃、経費は覚悟しなければなりません。年俸に換算すると、却って報酬が減額することもあります。もちろん独立するコンサルタントの多くは、報酬の増額を眼目にしているわけではありません。ファームに残って仕事を続けるよりも、独立した方が社会貢献できると考えたから離職するのです。コンサルタント業界は比較的自由度が高いことで知られていますが、それでもファームの一員として行動を制約されることもあります。その制約さえ嫌うコンサルタントは、なるべく早く独立したいと考えるものなのです。独立して自由に案件を受注できるようになれば、本当に自分のやりたい仕事だけを選んで取り組むことが出来ます。ファームの一員だった頃はコストに気を遣ったり、クライアントとの面会時間も制限されたりするのが普通なので、独立した途端、幸福を感じるコンサルタントも多いと言われます。独立してから経済面以外で気を付けるべきなのは、営業活動と自身のスキルアップをどう担保するのかということでしょう。独立したばかりの頃は中々受注できないのは当然です。ところで、新たにファームを創設する以外にも、新事業を起こすという選択肢が考えられます。つまりコンサルティング業界から離れて経営者を目指すという選択肢です。確かにコンサルタントは経営者に指南するのが仕事なので、コンサルタント経験者が起業すると、成功するように思われます。しかし現実はそれほど甘くありません。

コンサルタントの転職事情

コンサルタントとして実績を積み、自信を付けた人たちは、いつまでも同じファームに居続けようとはしないものです。自分の実績、キャリアを武器にして、転職活動に臨む人がほとんどです。もちろんファームに残ってマネージャーやパートナーを目指す選択肢も考えられますが、非常に高い競争率であることを覚悟しなければなりません。ですから多くのコンサルタントにとって、転職という選択が、キャリアアップとしては最も現実的なのです。ところで転職する場合、他のファームに移るべきなのでしょうか。それとも思い切って他の業界にチャレンジすべきなのでしょうか。判断は人それぞれでしょうが、統計によれば、他のファームに転職する人が多いようです。新天地がコンサルティング ファームなら今まで積み上げてきたキャリアを活かせますし、更なる高みを目指して頑張れる環境ですから、気持ちは分かります。コンサルティング業界は狭いですから、実績さえあれば、ファーム間の転職はそれほど難しくありません。前職で出来たコネクションを活かすことが出来るからです。では他の業界に転職するケースはどうでしょうか。コンサルタントの中には、たとえ優秀で実績を残したとしても、コンサルティング業界を離れたいと思っている人が少なからず存在します。理由は単純で、激務に耐えられないからです。精神的、肉体的に辛い思いをしてまでキャリアを積み上げることに疑問を感じ、突然離職する人もいます。彼らは他の業界に転職することになりますが、元々優秀な人たちなので、例えば過去のクライアントの関係先にコネで転職するケースも珍しくありません。転職後のやりがいについては、コンサルタント個々人の捉え方次第でしょう。一般企業は個性を犠牲にすることも多く、コンサルタントにとっては協調性を強いられるように感じることも少なくありません。

コンサルタントの成長軌道

新卒で入社したコンサルタントがどのように成長するのかは、初期の時点で判断できるものではありません。入社後すぐに急成長したものの、途中で伸び悩む人もいますし、逆に研修期間からお荷物になっていた人が、しばらくして突然成長することもあります。ですからコンサルティング業界の教育意欲は非常に強いと言われています。コンサルタントとしては、たとえ上手くいかない時期が続いても、大器晩成をを信じて研鑽を積むことも大切です。自分で自分を過小評価してしまうと、早いタイミングで離職してしまい兼ねません。もちろん長年勤め続けても一向に芽が出ない場合は、どこかで勇断しなければなりませんが、いずれにしても焦らずにマイペースで食らいつけば良いのです。ファームも退社させるために厳しい評価を下しているわけではありません。あくまでも発奮材料として評価をフィードバックしているのです。どうしても離職したくなった時は、自分の明るい将来を信じて決断を後悔しないようにしましょう。コンサルタント業界で学んだことは、必ず他の業界でも役立ちます。確かにコンサルタント業界は他の業界と一線を画していますが、ビジネスを俯瞰する視座に立った経験は必ず生きてきます。他方、ファームに残り続けているコンサルタントも、より報酬の高い新天地を目指して転職するかもしれません。元々コンサルタントはそのような志向の強い仕事ですから、ファームも突然の退職を認めています。それどころか、定年まで居着こうとするコンサルタントは非難されることもあります。ファームとしては、優秀なコンサルタントに数年でも貢献してもらえれば御の字なのです。

アップオアアウト

コンサルティング業界では、「アップオアアウト」という概念が知られています。これは、ファーム内で昇進を期するのか、それとも他のファームに移るのかを、コンサルタント本人が決断しなければならない事情を表しています。ファーム内でマネージャーやパートナーまで昇進する人は一部に過ぎません。ですから自分の昇進の可能性が低いと感じられた時、退社するのも選択肢だということです。確かにこうした概念は深く浸透しており、実際そのように行動する人もいます。ただ欧米に比べれば、ファームがそれを推し進めている印象はあまりありません。もちろん終身雇用制ではありませんが、長年勤続してくれたコンサルタントを放り出すような手荒な真似をするファームはほとんどないのです。日本人はまだ安定志向が強いため、昇進の見込みが無くても、最初に就職したファームに残り続ける人が少なからずいます。それも一つの選択なので、外野があれこれ指図できるものではありませんが、筆者は個人的に退社することを勧めます。というのも、コンサルタントに向いていない人が同じ仕事を続けても、本人が不幸だと考えるからです。コンサルタントとしては未熟でも、他の業界では優秀な人材として活躍できる可能性は十分あるわけですから、若い時分に見切りをつけて勇断するのも賢い行動だと思うわけです。一番ややこしい状況としては、本人が退社に向けて動いているのに、ファーム側がそれを引き留めようとするケースです。この場合は判断が分かれるところですが、筆者としては本人の意思を尊重したいと思います。ただ一言だけアドバイスするならば、誰かが引き留めてくれるということは、自分自身を過小評価している可能性があるということです。

フィードバックシートの実際

会社で下される評価にフィードバック機能が付いていれば、社員はその評価の正当性を確認することが出来ます。コンサルティングファームでも基本的にフィードバック制が採用されています。評価を記すための専用シートがファームに用意されており、そこにマネージャーがチーム内のコンサルタントの評価を記入します。項目は幾つかに分かれており、例えば「レポートの作成」といった欄が設けられています。この欄では、コンサルタントが提出するレポートの論理性、説得力を客観的に採点します。また、「会議」という欄もよく見かけます。そこでは、議論をリードする力、クライアントを説得する力などが評価されることになります。シートは評価の欄に加えて、マネージャーが書き込む「レビュー」の欄、コンサルタント本人がコメントするための欄が設けられていることもあります。評価は定量的評価と定性的評価とに分かれており、定量的評価は従業時間を主軸に割り出します。一方、定性的評価はコンサルタントのパフォーマンスを5段階で評価したものです。そして両者を掛け合わせたものが総合評価として下されます。このフィードバックシートを基に年俸が決まるため、ファームもコンサルタントも非常に大切にシートを扱っています。評価から年俸を算出するための計算方法についても、公平性を損なわないように事前にきちんと定められています。最低年俸額は保証されていますが、それ以上の額は評価に基づく加算となります。ところで一部のファームでは、評価を下すに当たり、コンサルタント本人が参加することもあります。これはゴールセットシートと呼ばれる制度で、シートには事前にコンサルタントの目標が記されており、プロジェクト終了後にその目標にどれだけ近付けたのかを自己評価する仕組みです。もちろん客観的な視点も必要ですから、マネージャーと共に評価することになります。

年俸の色々

コンサルタントは一般的な会社員とは異なり、年俸制を採用しています。まるでプロのアスリートのように評価が下され、それに基づいて年俸額が定まる仕組みです。最低年俸額は保証されているケースがほとんどで、その額に加えて評価相当額が加算されます。評価は半年ごとに下され、評価理由はレビューで明記することになっています。その評価に納得できなければ、ファームと交渉することも可能です。ファームは高い評価を下したコンサルタントには、多額の報酬を付与します。そして、さらに高いパフォーマンスを発揮してもらうために、レビューで翌年の年俸額の可能レンジを記します。コンサルタントはレビューを読んで、自分の報酬が上がる可能性を信じ、研鑽を積むことになります。ところで、コンサルタントが自分に下された評価に納得できなかった時、1人でファームに異議を唱えることが出来るものなのでしょうか。もし一人で争うとすれば、多勢に無勢であることは目に見えています。そこで多くのファームでは、メンター制度を敷いています。メンターとは、コンサルタントをサポートする人たちで、コンサルタントの良き相談相手として交渉時に手助けしてくれる存在です。ベテラン社員がメンターを担うことが多く、メンターとマネージャーが交渉するとなれば、対等な関係で話が進みます。例えばレビューの内容に満足できなければ、まずはメンターに相談します。メンターもレビューが不当であることに同調してくれれば、二人三脚でマネージャーと交渉することが出来るのです。

コンサルタントに対する評価

コンサルタントもまた、正当な報酬を求めて行動します。ですから就職したファームで下される評価は、コンサルタントにとって非常に重要です。コンサルタント業界は完全な実力主義のため、優秀であれば報酬が増えやすい傾向にあります。先輩よりも多額の報酬を得ている若者が大勢います。裏を返せば、ファームから不当に扱われれば、コンサルタントはいつでも退社する用意があるのです。ではファームがコンサルタントから見放されないために、どのような評価基準を設け、公平に評価しているのでしょうか。ファームによって細部は異なるものの、基本的にコンサルタントを評価する単位はプロジェクトになっています。評価主体はパートナーやマネージャーであり、彼らは公平にチームのメンバーを1人ずつ評価します。評価はコンサルタント個々人にフィードバックされるので、その評価が正当なものであるのかを確認することが出来ます。因みにプロジェクトが長期間に及ぶ場合は、数か月単位で評価が下されるのが普通です。マネージャーの観察眼は鋭いため、コンサルタントの多くは下された評価に疑問を持つことはありませんが、納得できない時はマネージャーと面談して話し合うことになります。話し合いで解決した時は、その評価が年間の評価の一部として加算されます。評価の実際はファームの中を覗いてみなければ分かりませんが、例えば5段階評価を採用しているファームもあります。レビューも付いていますから、そのレビューに納得できなければ、コンサルタントは具体的に評価方法、評価基準に異議を唱えることが出来ます。コンサルタントの評価に関してもう一つ注意したいのは、コンサルティングファームはグローバルな企業であるという点です。つまり国際的にコンサルタントが異動するような環境下では、日本と現地の評価基準、評価方法を統一する作業が求められます。